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【超個人的】夏に読みたくなる本7選

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こんにちは、キタノリクです。
今年もあっつい夏がやって参りましたね。そして夏になると、決まって私がふと思い出す本があります。というか暑くて外に出たくないので、学生の頃から夏の間は冷房の効いた部屋で読書に耽るのが私の(根暗な)趣味なのです。

そんな読書歴20年を誇る私の超個人的「夏の本」7冊を今回はご紹介したいと思います。そうです、これはただの私の夏の思い出の本紹介です!以下目次!

 

 

階段途中のビッグ・ノイズ(越谷オサム

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10代の学生の方に特に読んでほしい、アオハル度200%の超弩級青春小説。あらすじを簡潔に述べると、廃部寸前の軽音楽部のたった一人の部員である主人公が、長年の夢であった文化祭でステージを披露ために部員集めに奔走し、集った仲間たちと一緒に幾多の困難を乗り越えて最後に文化祭のステージを飾る話です。ありがちです。どっかで一回は見たことありそうな話です。でも、この王道でテッパンな展開こそが良いんです。王道ってことは、それだけ需要があるってことですからね。これは私が中学生の時に読んだ本なので、読んでから10年以上は経ちますがこの本の読了後の爽やかさは何年経っても色褪せません。登場人物は9割9分男子だというのに、汗臭さよりも清々しさが勝るストーリーです。

軽音楽部らしく小説内では「Queen/We Will Rock You」や「Green Day/Basket Case」など実際の洋楽の名曲たちが数多く登場します。読みながら音楽を流せば、きっとさらに臨場感が増すことでしょう。10代の学生の方には勿論、忘れかけた青春を取り戻したい大人の方にもお勧めの一冊です。

ブレイブ・ストーリー宮部みゆき

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こちらは2007年にアニメ映画化されて話題になったファンタジー小説の傑作。これも私が当時中学生の時に読んだ本です。文庫版だと上中下巻あり大変長い小説なのですが、冒険心を擽るファンタジーな世界観にぐんぐん引き込まれてしまうので、本が慣れてない方でもすらすら読めてしまうと思います。

あらすじとしては、勉強は嫌いだけどゲームは大好きなどこにでもいるいたって普通の小学5年生亘が両親の離婚の危機に瀕します。離婚危機を引き金に露わになる数々の理不尽な出来事に悲しみや怒りに暮れる亘の前に、まるでゲームか御伽話のような空想世界「幻界(ヴィジョン)」が姿を現します。その世界に住む女神はどんな願いでも一つ叶えてくれることを知り、亘は女神にお願いして今の現実を変えるべく幻界へ飛び込みます。そんな世界で現実では到底できない経験を経て亘自身が少しずつ成長をしてゆくお話です。様々な出会いと別れを経て、亘は最終的には悲願であった幻界の女神と邂逅を果たします。果たして、彼は女神に何を願うのでしょうか?一夏の冒険のような気分になれること間違いなしの一冊です。

クビシメロマンチスト西尾維新

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可愛い表紙デザインからは想像できないほどに大変薄気味悪く気持ち悪い作品です。(誉め言葉)著者の西尾維新さんは中二病罹患経験者なら知らぬ人はいないでしょう、ライトノベル界の超大御所です。ちなみに私がこちらを読んだのも病気真っただ中の中学生時代です、さっきから三冊続けて中学生の頃ばっかだな…西尾維新と言えば「刀語」や「化物語」が有名ですが、西尾維新さんをデビューから追っかけている側の人間からすればこの作品こそ西尾維新の真骨頂を味わえます。

京都の大学に通う男子大学生が主人公です。この主人公、とある理由で入学早々暫く休学しており久々に大学に顔を出すわけです。久々の大学で知り合った同級生たちと仲良く(?)なり、そのうちの一人である女の子の誕生日パーティーに行った翌日、その女の子が何者かに絞殺されるというのが事件のあらましです。犯人が誰なのかという謎解きの部分は、あまり出来が良いとは言えません。勘の良い方なら恐らく犯人が誰かはすぐ分かることでしょう。しかし!この小説の本領はそこではないのです。最後まで読み進めれば殺人に限らないこの小説の薄気味悪さを感じていただけるはず。この気持ち悪さが癖になってしまい定期的に読み返したくなるという、麻薬のような魅力に満ちた一冊です。

ちなみにこの作品、シリーズになっておりナンバリングとしては第二作に当たるのですが単発でも十分読める内容になっていますのでご心配には及びません。もしこの小説を読んでシリーズの方に興味が湧きましたら「戯言シリーズ」で調べて頂くとよろしいかと思います。最高の中二病体験をお約束します。

きつねのはなし(森見登美彦

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真夏の夜にぴったりな、不気味で怪しい怪奇短編集です。著者の森見登美彦さんといえば「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話体系」「有頂天家族」で見せるあの独特で古風な言い回し(通称;森見節)で大変有名な作家ですが、こちらの作品は前述の作品の文体とは様相を反して、静謐で不気味なものになっています。四編の奇譚が収録されており、舞台はすべて京都。どのお話も不気味で真相は分からずじまい、という後味の悪さが残りますが読了後は不思議な清涼感に包まれます。全て独立した短編ですが、読み進めていくと奇妙な共通点が存在することに気付くことでしょう。それは例えば、「芳蓮堂」という骨董屋であったり、胴の長い奇妙なケモノであったり、狐面であったり…不気味で曰くありげなそれらを辿ってゆくと、まるで迷宮を彷徨っている気持ちになります。

個人的に一番気に入っている短編は「果実の中の龍」でしょうか。あらすじをご紹介すると、語り手である「私」は大学の研究会である先輩と知り合います。しばらくすると先輩は研究会に来なくなってしまうのですが、ある日街で先輩と再会しそれから先輩、先輩の彼女である結城さんと付き合いがはじまります。先輩はシルクロードを旅したことあると私に話し、その他先輩自身が経験した不思議で妖しくもうつくしい体験や出来事を私に聞かせてくれます。先輩は他の学生達とは一線を画した不思議な魅力を持つ人で、私は徐々に先輩に惹かれていくと同時に劣等感も覚えるようになってゆきます。ある日、風邪をひいた私は看病をしに来てくれた先輩に「僕はつまらん男です」と熱に浮かされて心中を吐露してしまいます。それに対して先輩に「そうか…それを言うなら僕はもっとつまらん男だぜ」と返されます。その言葉が意味するものとは一体何なのか…

読了後、貴方は思わず闇の中に何かが潜んでいる気がして、暗闇に目を凝らしたくなることでしょう。夏の短夜に是非読んでほしい一冊です。

時をかける少女筒井康隆

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別名「時かけ」です。細田守監督のアニメ映画で大変有名すぎるこちらの作品ですが、原作が短編小説であることを知っている方は不思議と多くない印象です。かくいう私も母から原作小説の存在を教えてもらいました。原作といっても、アニメ映画の内容とは随分異なります。というのも、原作小説の主人公はアニメ映画の主人公の叔母にあたる人物だからです。

主人公は中学3年の芳山和子。和子はある日の理科室掃除の途中で何かが割れる音を聞き何者かの気配を感じますが、それが誰なのか確かめられないままラベンダーの香りを嗅いで気を失ってしまいます。それを機に和子の周囲で、深夜に地震が起きたり同級生の家でボヤ騒ぎが起きたりと奇妙な事件が連発します。極め付けには友人と一緒に和子は交通事故に巻き込まれ、死を覚悟しました。ところが途端に世界は暗転、和子は交通事故が起こる前の時間へ遡行を果たします。その後和子は理科室の先生や友人にこの不思議な体験を打ち明けます。そして和子はやがて自分の意思でこのタイムリープ能力を使いこなすまでに至ります。大変便利な能力ですが和子は周囲から奇異な目で見られることも少なくなくなり、こんな能力を失くして普通の生活に戻りたいと内心願っていました。元に戻るため、そしてこの能力の真相を知るために、和子は発端となった4日前の理科室に遡行し、あの日感じた気配の正体を待ち受けます。そこで明らかになる真相と、切ない恋の約束に心をぐっと掴まれることでしょう。

初出は1967年で今からおよそ半世紀近く前になる小説ですので多少の古めかしさは否めませんが、SF近未来要素とこの古めかしさが大変よくマッチした作品です。中学生という多感で瑞々しい時期と、時空を超える不思議な体験、この二つの相性の良さは語らずとも分かりますよね。時代が移ろえば流行も価値観も当然変わりますが、この作品には何年経っても色褪せない普遍性に満ちた魅力が詰まっています。長きに渡り名を遺し続ける不朽の名作SF小説です。クーラーの効いた部屋で、和子と一緒にタイムリープを楽しみながら読んでほしい一冊です。

いま、会いにゆきます(市川拓司)

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市川拓司さんのベストセラーであり、大変美しい恋愛ファンタジー小説です。2004年に映画化されて大変話題になりましたね。ちなみに、こちらの作品は私が小学生のときに出会いました。(どんな小学生だよ)それまで読んできた本は児童書ばかりで、初めて読んだ一般文芸小説がこちらの「いま、会いにゆきます」だったわけです。今まで触れたことのなかった精緻で美しい世界観に大変感動したことを今でもよく覚えています。私が文学へ憧れを抱くようになったきっかけでもある大変思い出深い一冊です。

主人公である秋穂巧は1年前に妻の澪を病気で亡くし、それから一人息子の祐二と二人で暮らしています。巧は脳の病を患っており普通の人が難なくこなせることが上手くできない悩みを抱えていますが、慣れない家事や育児に奮闘しながら祐二と日々慎ましく過ごしているところからお話は始まります。妻の澪は死の直前二人にこう言い残します。「1年たったら、雨の季節に又戻ってくるから」その言葉の意味が分からないままに澪はこの世を去り、季節は巡って澪が言っていた次の雨の季節を迎えました。週末、巧は祐二と一緒に散歩へ出かけます。すると散歩の行き先でお決まりの町外れの森の中で、なんと死んだはずの澪を見つけるのです。そう、妻は遺言通り雨の季節に帰ってきたのです。しかし、当の澪はここ数年の記憶をすっかり失っており、自分が巧と結婚して子供である祐二がいることに驚いていました。かくして、記憶を失くした妻と不思議な共同生活が始まります。雨の季節が終わる時、なぜ澪は記憶を失くしていたのか、そしてなぜ澪は自分が次の雨の季節に二人の元へ戻ってくることを知っていたのか、タイトルである「いま、会いにゆきます」の意味、全ての真相が明らかになります。あまりに強く切なく儚いその真相を知った時、涙せずにはいられません。読了後、まるで雨上がりの虹を見上げているような気持ちになることでしょう。文字通り心洗われる素晴らしい傑作恋愛小説です。

こころ(夏目漱石

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結局ね、ここに戻ってくるところありますね。日本国内での累計販売数がトップと言われてる例のあれです。まあ今の所は1位らしいですが、長い目で見ると2位の太宰治人間失格」と未だデッドヒートを続けている例の本です。はい、言わずと知れた文豪夏目漱石作品のなかでも特に著名な「こころ」です。高校の現国の教科書によく掲載されてるので真相を知らぬ日本人はあまりいないでしょうから内容全開でもいいんですけど、まあ今までのセオリーに則ってちゃんとその辺抑えつつあらすじを書きますね。

舞台は明治末期。書生である主人公「私」は夏季休暇中に友人に呼ばれて鎌倉へ訪れます。しかし私が鎌倉へ着いて早々、私を呼び寄せた当の友人が訳あって実家へ帰らねばいけなくなり、私は一人鎌倉に取り残されます。どこへ行くあてもない私は毎日鎌倉の海へ入りに出かけますが、その海岸の掛茶屋で「先生」と出会います。はじめはすぐには声を掛けません。ただ毎日海へ通うたびに先生の姿が目に入り、私は妙に気になってしまってとうとう声を掛けて、それがきっかけとなり二人の付き合いがはじまります。その後東京へ戻っても先生との交流はつづきます。私は「先生」と呼んでいますが、実際は海でたまたま出会った世捨て人です。ではなぜそう呼ぶのかというと、先生はいくつか私に教訓めいたことを教えてくれることあり、私のとってはまさに人生の「先生」と呼ぶに相応しいと思える人物であったからです。そうして交流を重ねていくにつれ、私は徐々に先生に妙な違和感を抱くようになります。先生には奥さんがいて一見すれば仲睦まじい鴛鴦夫婦のように見えるのですが、長きに渡り先生と交流を重ねてきた私は気づいてしまうのです。先生は何か、私には勿論奥さんにも言えない秘密と懺悔を抱えていることに。私は先生にそのことを問い詰めますが、先生は「時が来れば話します」とその時はその秘密を明かしてはくれませんでした。そうして来る1912年7月30日、明治天皇崩御の知らせが日本中を駆け巡ります。当時、私は父の病気が思わしくないという知らせを受けて実家へ帰省していました。そこで先生から長い長い書簡を受け取ります。そこには、あの時教えててくれなかった先生の秘密と過去のあらまし全てが切々と綴られていました。

大変ひどいことを言いますが、この話を読んで「感動した」「近代文学の傑作だ」とは軽々しく私は口にはできません。何故なら、そう語るには先生の過去があまりにも辛く悲しすぎるからです。これを読んで最後に残る感情といえば、感動ではなくて絶望です。しかしながら、これほどまでに人間の心の明暗を表した作品を私は他に知りません。そう、人間であるからこそこの作品は深く心に突き刺さるのです。読むたびに何度絶望を味わおうとも、7月の終わりを迎えるとふと思い出しては読み返してしまう。夏の終わりと時代の終わりを象徴する一冊です。

【総評】日本の夏、小説の夏 

数多ある夏の小説のなかから、何年経っても色褪せず夏の青空のように鮮やかに私の心に残り続ける本7冊を今回は抜粋しました。

私、一番嫌いな季節を問われれば躊躇なく「夏」と言い切る自信があるくらい夏が嫌いです。理由は言わずもがな、暑いからです。しかしながら私の遺伝子にも日本人のDNAが含まれているようで、あんなに嫌いな夏でも終わりを前にするとちょっとセンチメンタルな気持ちになったりもします。楽しかったり、寂しかったり、悲しかったり、美しかったり、爽やかだったり、妖しかったり、一口に夏といっても様々な顔があります。季節の終わりというのは大体感傷的な気持ちになることが多いものですが、夏が過ぎ去る際の惜しまれ具合は他の季節と比べても特別だと改めて感じました。

今はコロナのこともあり、なかなか外に出かけることが出来ないため季節感が薄らいでしまいそうですね。世知辛い今ですがそんな今だからこそ。小説を通して夏の世界を感じていただければと思います。